春の途端

とりとめもなし、思考や事象や日常について

きらきらひかる

江國香織きらきらひかる新潮文庫

 

を、読んだ。

江國香織は最近ふと好きになって、それには『神様のボート』を読んだことが大きいと思う。母娘がたった二人、どの土地にも根付かず、いつか会えるパパを待って暮らしていく数年の話。

エアコンのない中庭付きのアパートや、歩いて数分の海や図書館、美術館とそこに併設されたカフェで飲むジュースなど、住まいを変えるたび周りの環境も変わり、その“箱庭”のような美しさ、こぢんまりとした安心感に癒された作品だった。そこから次に読んだのが、この『きらきらひかる』。

 

風合いは『神様の〜』と全く違う。著者も話していたが、究極の形をした恋愛小説はこれなのだと、強く感じる。精神を患う妻、同性愛者である夫と、その恋人。役割で振り分けてしまえばどうにも無機質に聞こえるが、物語中に熱は脈打つばかりで、最後まで人間らしさにまみれていると思った。三人の関係性の行き着き方が好き。美しいと思う。

個人的に、実はまだあまり彼らの選択について分かっていないところが多くて、例えば妻・笑子がなぜ夫の恋人・紺くんのいる生活を譲らないのか(紺くんの話を夫・睦月から聞きたがり、よく家に招待したがったり、睦月と紺の関係を求めているように見受けられる)とか。章ごと、笑子と睦月の視点を交互に進んでいくので、片方の視点になったときもう片方が歪に思われる(異質に見える)部分が、別の人間をえがいている、と感じられて面白かった。筋や道理が、二人それぞれにあるのだな、と。

 

これを読み終えた後で『ウエハースの椅子』を買ってきたので、次はこれを楽しむ予定。『真昼なのに昏い部屋』も積んでおり、江國香織を楽しむ夏になりそう!