春の途端

とりとめもなし、思考や事象や日常について

ブラームスはお好き

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フランソワーズ・サガンブラームスはお好き』朝吹登水子訳、新潮文庫

 

を読んだ。

 

サガンをこれまで、デビュー作『悲しみよ こんにちは』2作目『ある微笑』の順に読んできた。読むたび、“好き”が更新されていく。その作品のいずれもがすべて最高であるの、ほんとうに驚く。サガンの文章は肌心地がいい。

今回の『ブラームスはお好き』は4作目にあたるという。日本語訳だからこれがほんとうの味わいがどうか分からないのだが、初めの頃に比べて地についてきたというか、下地のしっかりとした? 芯のある? 表現に変わったなと感じた。『悲しみよ〜』『ある微笑』の2つには、微睡みがかった言葉の調子があったように思う。

40を目前に控えた聡明で美貌な女性・ポールと、その恋人・ロジェ。若く、驚くほど美しい青年・シモンはある時ポールと知り合い、心の底から彼女を愛するようになる。ポールには付き合いの長い恋人・ロジェがいるが、彼はその座に胡坐をかいてよその女のもとへ出かけてばかりいる、ポールを確かに愛していながら……自身を芯から愛してくれるひと回りも歳下の青年か、自身と並び立ったとき感じのいい、他の女を見てばかりいる恋人か、ポールはどちらを選ぶのか……。個人的に、結末が大好き! 非常にいい味が滲み出ていると思う。

サガンは人間の複雑な胸中を、さらりとした表現で(ねばつくことなく)俯瞰して映すのが上手いと思った。心の描写について、重要視して言葉をしつこく重ねてしまうところだと考えているので、本当に読んでいて感激した。特に、ポールの恋人・ロジェについて。彼がポールを愛していることは、青年・シモンに対する友好的ではない態度やポールに見せた苦しげな表情から分かるものの、それとは離れた部分で、ナチュラルによその女・メージーと旅行に行ったりする。決して彼女を好んでいる訳ではないというのに、ロジェは繰り返し会いに行く。ポールが自分から離れてしまうことを想像して、焦るくせに。そこに浮気する男の姿をありありと見たというか――浮気そのものが目的ではなく、ポールに対する安心感にうずもれて、といったように感じられた。

 

デビュー作『悲しみよ こんにちは』が18歳のとき、この『ブラームスはお好き』は彼女が23歳で書いたという。サガンのつくった物語を知るたび、その1つひとつ、細かく書き込まれた世界を見て、感嘆する。次は何を読もうかな。