春の途端

とりとめもなし、思考や事象や日常について

ヌードモデル

(山口つばさ『山口つばさ短編集 ヌードモデル』講談社

 

今日8月23日に発売、早速買ってきて読んだ。作者の別の作品『ブルーピリオド』が好きだったから短編集の告知も聞いてはいたけれど、手に入れるかどうかは迷っていて。だから夜中に試し読みをして買う、と即決したの、スピーディー過ぎて自分自身少し面白かったな。

読んでよかった。全3編、知ることができてよかった。ねっとりとした雰囲気のすべてが、普段私の知る『ブルーピリオド』にない色を持っていて、それが私の肺を濃く満たしたように思う。何と言うか、すごく感性を震えさせる話を読んだとき、心や胸がひどく重たくならない? 頁の中身を思い出して喉がキュッ、と締まったり、息をするのが億劫になったり。そういった重たい感覚が、今日もこの『ヌードモデル』の3編にはあった。素敵な作品たちだった。

私は表題作の『ヌードモデル』がいちばん好き。主人公・百瀬と夏目の、隠す・隠さない、その隠し方? というものが対照的で、二人の関係性に惹かれる。百瀬は「魅力的に見えるように笑ってる」ことで自分の中身を隠し、それは一糸まとわぬヌードモデルという役割と真反対にある。夏目はしんとした顔をしていて、けれどそれは決して笑わない、笑えない、というわけではない。

ヌードというテーマ、『ブルーピリオド』にも強いテーマとして登場するんだ。ブルピの主人公・八虎(やとら)が藝大の二次試験に挑んだ際、その課題がヌードモデルであったし、試験より前に彼は友人と二人、セルフヌードを描く機会に出会っている。はだかについて、服を着るという行為、ひとによって持つそれの印象の違いと、八虎の出した答えに熱い気持ちで読ませられた。作者の柱として、ヌードが強くあるのだろうか? 今回、短編集を読んだことで新しい視点が拓かれ、考えも深まったように感じる。

あと、ブルピ6巻を読み返していて八虎二次の隣の人、夏目? と思った……!

他2編『おんなのこ』『神屋(前・後編)』も非常に楽しく読んだ。

『おんなのこ』は主人公・矢田の言葉が自身の首を絞めるようにもなる瞬間が、ほんとうに一瞬の転換に思え、面白い。読みながら、特にその転換点以降苦しくてしようがなかった。

『神屋』はつい先日のアフタヌーン本誌で掲載された、いちばん最近の話。魅惑でこちらを焼け尽くしてもおかしくないひとの描き方にすっかりあてられた。これは余談なのだけれど、オスカー・ワイルドの『サロメ』に登場するサロメのような女が好きなので、そういった部分でもすごく惹かれたかもしれない。あと、性に分けられていないひとも好きだからそれも。見開きに魔力が宿っていた。あのバン、と出てくる瞬間、しびれてしまうよ。

最後に、表紙の絵のこと。顔から背中の半分まで、青い暗がりの中にいるのに対し、背中のもう半分、特に臀部が生き生きとした肌をしていて、その色の合わせが好き。向こうを見つめる瞳、何も着飾らない顔、この瞬間、彼は間違いなくはだかなのだと思う。

あと、この一枚を見たとき、その背骨のきらめきに目を奪われたのだよね。光源の少ない中で、美しい弓なりの、すらりとした、たった一本。そこにまばゆい光の溜まるさまが絵の中で表されているの、非常に魅力的だなと。あらゆるところで楽しませていただいた一冊。